


●「ノーカントリー」"No Country for Old Men"。怖い。七三分けマッシュルームカットの殺し屋は選択と決断を基にした不思議なルールに従って出会う人々を殺す(もしくは殺さない)。彼の顔を見たら人生の全てをコイントスに賭け、全責任を取らなければならない。自分の選択を信じられない依頼人も仲間も殺す。"What's the most you ever lost on a coin toss?""Call it, freiend-O"。そのルールを見極めようとするうちに登場人物の多くは死に映画も終るが、殺し屋のどこかに一貫したルールやモラルがあると悩むこと自体が、本作でトミー・リー・ジョーンズが体現している、犯罪にはそれなりの理解できる理由があるとする"Old Men"のパラダイムでしかない。この殺し屋はマクガフィンであり中身がない記号だ。舞台となった80年以降の純化され自己目的化した暴力そのものの表象である。原因や理由は必要とされない。最後は金を奪い返すための殺しでもない。音楽はなく映像がソリッドで120分一気に過ぎる。怖い。●「Mister Lonely」ハーモニー・コリンが復帰してやっぱり映画が大好きと宣言している映画。他人のモノマネは苦しいのではなく、人生そのものが息苦しい人にとって、他人の人生を借りると、借り物だから長続きしないのは薄々わかっているけど、少しだけ楽になる。ヴェルナー・ヘルツォークとレオス・カラックスが脇で出演する貴重なフィルム。