2005年10月20日

森のモダニズム

『E.G.Asplund―アスプルンドの建築1885-1940』
(写真:吉村 行雄、文:川島 洋一、TOTO出版)

スウェーデンの建築家アスプルンドの作品集。
アスプルンドは今では北欧の近代建築の巨匠とよばれるが、94年に「森の墓地」が世界遺産登録されるまでは、知る人ぞ知る存在だった。クラシシズムとモダニズムを行き来し、同時代のコルビュジェやミースに比べて後世への影響は大きくない。そんな事情から、建築史にはっきり位置づけることが難しい存在だが、北欧の豊穣な森林への憧憬と、人びとの暮らしへの信頼あふれる、モダニズム時代のリアリティに応えながらも不思議と暖かい建築を残している。

雑誌連載時から読んでいた中村好文さんの、愛情に満ちた建築巡礼記『意中の建築』(上巻下巻)にも、アスプルンドだけは、2作品登場している。


「森の火葬場」は森とともに暮らしがある北欧での、ランドスケープデザインの奇跡的な成功。
森の葬祭場.jpg
(c)HAMADA,Yasuo www.suakx.com

<この道行きには、遺された人々の気持ちを優しく抱きしめ、悲嘆にくれる心を深いところから癒してくれる包容力と治癒力が備わっているような気がしてなりません。>

「ストックホルム市立図書館」は、円形の大閲覧室に、360度、約8メートルの高さに及ぶ本に囲まれる。
ストックホルム市立図書館.jpg
(c)HAMADA,Yasuo www.suakx.com

著者は、他の川の字に書架が並んでいる図書館は「書庫」であり、これこそが「図書館」だと言う。確かに、読者を未知の世界へ誘う読書は、倉庫ではなくこのような場所にこそふさわしいのだろう。ボルヘスですね。
ただ、この図書館の魅力はこの有名な大閲覧室だけではなく、実は非常に細かく設計・デザインされた、照明・水飲み場、階段の手摺、椅子などの細部への装飾だと言う。

<建築が機能的で、合理的であることにまったく異論はありませんし、ダイナミックな空間構成も大いに結構。もちろん、鉄とガラスとコンクリートだけで作られたミニマルアートのような、スカッと簡潔明快な建築に感動しないわけではありませんが、ふと、それだけが建築のすべてになってしまったら、建築ならではの「物語性」と「神秘性」が、「機知」と「ユーモア」が、そして「夢」というかけがえのない宝物が失われてしまうことに気づき、寂寞とした思いにとらわれるのです。>

と著者が語る建築への思いは、この本を貫く問題意識であり、アスプルンドも同じことを考えていたのだろうと思わせる。

冒頭の作品集の解説では、驚くことにアスプルンドは日本の建築を念頭に置いていたとある。
日本建築の軒下、障子、縁側における空間の柔軟性を志向していた、ということだ。

<(アスプルンドは)自身の建築理念をまとまった形で書き残すことには興味がなかった。したがって、翌1931年に王立工科大学の教授に就任した際の記念講演は貴重である。その記録によると、新しい建築の性質が“空間の解体と変化”という以前にはなかった建築理念を生む、と主張するのだが、そのとき彼が念頭においていたのは、なんと日本建築だというのである。軽快な壁を必要に応じて動かして設えを変えること、内部と外部の空間が一体化すること、の両者を結びつけて彼が語るとき、“われわれの時代の建築が日本建築に近づくとアスプルンドは主張したのであった>
posted by ysms at 18:34| Comment(0) | TrackBack(0) | 01 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

この記事へのトラックバックURL
http://blog.seesaa.jp/tb/8386645

この記事へのトラックバック