2005年10月03日

ジャズ喫茶のマスター

村上春樹が、ジャズ喫茶店主(たしか国分寺)であった時代に、
今はもうない「JAZZLAND」という雑誌で、ユニークな文章を書いている。
当時から文章の芸は冴えている。

「ジャズ喫茶のマスターになるための18のQ&A」(「JAZZLAND」昭和50.8.1号)

Q1 ジャズ喫茶を始めたいと思うのですが、さしあたって一番要求される資質は何でしょうか?
A 恐れを知らぬ行動力です。

Q2 それでは一番不必要なものは?
A 知性です。

Q3 現在大学に在学中ですが、卒業はした方が良いでしょうか。
A 経験から言うと、卒業証書の表紙はメニューにぴったりです。

Q4 好きな女の子が居るのですが、ジャズ喫茶のマスターとしては結婚していた方が得でしょうか、それとも独身でいた方が得でしょうか?
A あなたが一体何を指して得とか損とか言ってるのか、よく理解できないけれど、この世の中で結婚して得をすることなど何ひとつないのです。

Q5 よくジャズ喫茶のマスターは女の子にもてるっていう話を開きます。そんな時、客の女の子には手を出していいのでしょうか?
A まったくの取り越し苦労です。

Q6 レコードは最低何故必要でしょうか?
A 度胸さえあれば15枚でOKです。

Q7 でも、「ファンキー」や「DIG」に行って、レコード棚やオーディオを見る度にガックリして、僕なんかにとても……という気分になるのですが?
A そんな所に行くのが間違っているのです。国分寺に来なさい。

Q8 僕は前衛ジャズに弱いので、それ以外のジャズを中心にやりたいのですか?
A お好きなように。

Q9 お客に文句は言われませんか?
A もちろん言う人は居ます。気にしなければいいのです。
あなたのお店なんだし、好きなようにやってみて、儲かるのもあなた一人だし、赤字を出して首を吊るのもあなた一人なのです。


Q10 お酒を出すつもりなのですが、酔って騒ぐような人が居たらどうしたらいいのでしょうか?
A 「戦艦バウンティ」という映画が昔ありました。その中で異端分子は全員船から突き落とされていました。

Q11 「スイング・ジャーナル」に広告を出すべきでしょうか?
A もちろんです。その上に「スクリーン」と「週刊平凡」に広告を出せば効果は抜群です。

Q12 僕はコルトレーンの『至上の愛』が嫌いなので店には置かないつもりなのですが、
友人は“『至上の愛』のないジャズ喫茶なんて…と言います。どうでしょうか?
A バカは相手にしないことです。

Q13 ジャズ評論家にコネがきくのですが、レコ−ド解説やコンサートをやった方が良いでしょうか?
A テスト盤をもらうだけくらいの方が賢明です。ロシア革命の時、一番最初に銃殺されたのはジャズ評論家だったそうです。

Q14 ジャズ喫茶という職業は一生続けていくに値いするものでしようか?
A 田中角栄にとって土建業が一生続けていくに値いする職業なのか?
川上宗薫にとってポルノ小説家が一生続けていくに値いする職業なのか?
猫にとってキヤツト・フードが一生食べていくのに値いする食物なのか?
非常に難しい問題です。


Q15 僕にとってジャズ喫茶はまるでなにか青春の里程標のような気がするのですが、 こういう考え方は間違っているのでしょうか?
A 間違ってはいませんが、明らかに誇張されています。

Q16 それではジャズ喫茶とは一体何なのでしょうか?
A ジャズを供給する場所です。ジャズとは何か?
僕はそれは、人生における一種の価値基準のようなものではないかと思うのです。
茫漠とした時の流れの中で、僕たちの人生がどんな風に輝き、どんな風に燃えつきていくのか?
ジャズの中に沈みこんでいる時、僕たちはそんな何かをみつけだせるような気がするのです。


Q17 そういう考え方は少し誇張されすぎてはいませんか?
A すみません。その通りです。ただ僕の言いたいのは、ジャズ喫茶のマスターがそういった使命感を忘れたらもうおしまいだっていうことなのです。

Q18 ところで話はガラッとかわりますが、今年のヤクルト・アトムズはどうなるのでしょうね?
A 当然優勝します。巨人は最下位になり、王はナボナのCMから下ろされます。

  

posted by ysms at 20:49| Comment(6) | TrackBack(2) | 01 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
はじめまして。

この文章ははじめてみました。
村上春樹らしさ全開ですね。
面白いものを見せていただいてありがとうございます。
またお邪魔します。
Posted by TAEZO at 2005年10月04日 20:42
TAEZOさん、はじめまして。
こちらこそコメントありがとうございます。
春樹氏は1949年生まれ、これは1975年の発表ですので、26歳のときの文章ですね。おそろしいものを感じます。
今後ともよろしくお願いします。
Posted by ysms at 2005年10月05日 13:09
26才…。
今の私より年下なんですねえ。
樋口一葉がもう年下だ、
と気づいた時と同じくらいがっくりきました。
比べてもしょうがないんですけれど。
こちらこそ、よろしくお願いします。
Posted by TAEZO at 2005年10月06日 23:23
森博嗣っぽい
Posted by at 2010年03月26日 18:58
王さんなんて何したかも存知上げないのに…
文章を読むと前後関係まで分かる。
なんて面白い人だ!
Posted by 孔明 at 2010年03月27日 04:17
回答がJAZZだ。
75年か。Milesが日本にやってきて、王が不調で、田淵がホームラン王。

ヤクルト優勝は3年後ですね。少し強くなってきた時期。
Posted by お代官 at 2015年09月15日 14:34
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

この記事へのトラックバックURL
http://blog.seesaa.jp/tb/7647931

この記事へのトラックバック

[メモ]デヴュー前から村上春樹は嫌味なほどに冴えている。
Excerpt:  いつも楽しく読ませてもらっている[http://lynceus.seesaa.net/:title=ysms(nomadica)さんのブログ]に、[http://lynceus.seesaa.net..
Weblog: モウビィ・ディック日和
Tracked: 2005-10-03 23:59

村上春樹がジャズ喫茶店主だった時代に書いた、「ジャズ喫茶のマスターになるための18のQ&A」が面白い
Excerpt: 世界的な作家である村上春樹。 「Lynceus」によると、彼にはかつて国分寺でジャズ喫茶の店主をしていた時期があり、そのとき「JAZZLAND」という雑誌に書いた文章がとても面白いのだとか。 元記事に..
Weblog: blogs.com
Tracked: 2010-03-29 11:00
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。