2005年10月01日

断絶と連続

『完本 文語文』(山本夏彦著、文春文庫)



夏彦翁の父親の友人、武林無想庵について語る。(武林無想庵については、名著『無想庵物語』(文春文庫)がある)

<私は武林に、明治を感じることすくなくなかった。話して通じないということがなかった。そりゃそうである。分からないだろうことは言わなかっただけである。それに当時は父祖と住む家庭が多かったから父祖と話が通じるように通じるのは当然なのにそれでいて明治は遠かったのである。たぶんそれと察したのであろう。武林は散歩の途すがら震災で焼けない家を指して「ほら」と言った。「これが明治だよ」。>

文章に漢籍の素養と文語文の香りを残す「最後のひと」、山本夏彦のエッセイ。
滅んだ文語文を懐かしむ筆致は喪失への寂しさと、断絶への悔しさに満ち、美しい。
しかし単なる懐古趣味とも言いがたく、断絶されたはずの私達が読んでも、その文章のリズム、ことばが心地よく感じる。
夏彦翁は、ほんとうは断絶ではなく、断絶のあとそれでも残るなにかを、無想庵のように語ろうとしていたのだろう。
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